07年10月09日
 

「牛に引かれて善光寺」
 私め、このことわざをもじってネタにしておりますと
「あれ、どういう意味ですか?」
  若い舞台スタッフに尋ねられました。
「思いもよらぬ出来事や人の誘いによって、偶然よい方に導かれることさ」
 エッヘンと、こたえながら、はたと思いました。
 ことわざの元となった物語も彼は当然、知るよしもないのです。
「スタッフみんな集合」

 ならばと、休憩時間は
 珍・日本紀行 in 楽屋 牛に引かれて善光寺の巻
  となりました。

 今回はその模様をここに。
 (さすが舞台関係者です。こっそり録音してたんですよ。それを、つまり、語りをそのまま記しますので、読み辛いこと、お許し下さい)

 小諸なる古城のほとり……。
  え〜と、次が出てこない。(スタッフ爆笑)
 島崎藤村『千曲川旅情の歌』で知られる信州・小諸。
 小諸駅から西 3 キロに、京都・清水寺を思わせる懸崖造りの布引観音があります。

布引観音

「牛に引かれて善行寺」
  引かれての「引」が出ててまいりましたナ。

 昔々、この近くに強欲なクソババアが住んでいました。
  クソババアと呼ばれるからには、それはそれは、良かならぬ行いの年月を重ねていました。
「老婆は1日にしてならず」
  なんてネ。 (スタッフ失笑)

 さて、ある日のこと、お婆さんが千曲川で布をさらしていると、どこからともなく一頭の牛が現れて布を角にかけて走り出しました。
「こら待て〜!」
 お婆さんは必死で牛を追いかけます。
 悲しいかな、体力のないお婆さんです、牛に追いつけない。
 しかし、強欲なお婆さん、根性はあります。諦めません。どこまでも、どこまでも追いかけて行きます。
 そう、S君のあの執念に似ています。(スタッフ大爆笑)
 (ホテルに忘れ物をとりに行ったため最終列車に間に合わず、帰京できなくなったスタッフのエピソードを引用)

 ふと気づけば長野・善光寺にいました。

善光寺

  凄い追跡です。
 現在でしたら小諸から、しなの鉄道、信越本線に乗り継いで 48 分。運賃 1,120 円の行程。
  もしくは上田まで、しなの鉄道で出て上田から新幹線で行く運賃 1,800 円。ただし 50 分かかるので、信越本線利用の方が良いでしょう。(スタッフ拍手)

 さあ、布を持ち去った牛です。
 善光寺さん、金堂の中に消えるように入っていきました。
 やっと捕まえられると、お婆さん、金堂に入りますが、そこには牛はいない。
 何やら、光るものがある。 牛のヨダレです。ヨダレが文字を書いていました。
  なんじゃろな、と読んでみれば

「牛とのみ思いすごすな仏の道に
 汝を導く己の心を われ観世音菩薩」

 お婆さん、腰を抜かしました。
 観世音菩薩が牛に化していたんですね〜。
 盗人にも五分の魂のたとえ、欲張り婆さんも、それまで心の奥で眠っていた『信心』が目覚めました。
  その夜は金堂にこもって、過去の罪業を詫びて翌朝、小諸に帰りました。

「おい、クソババアが、おはぎつくったからって、持って来てくれたぜ。最近、変わったな、いい人になったぜ」
  善光寺如来への信仰を深めて、お婆さんは人が変わりました。
 そんなある日、布引観音(冒頭の写真)にお婆さんがお詣りに行ってびっくり仰天。
 あ〜ら不思議、観音様の肩に牛にとられた布が掛けられているではありませんか……。

 観世音菩薩が牛に化して信心うすい老婆を善光寺に導いて教化をした。
「春風や牛に引かれて善光寺」小林一茶。
 嗚呼、ありがたや善光寺さん、御利益譚の一席〜っ。

 楽屋に感動の拍手の音が……と思いきや、
「(-。_)。。o〇」
  聞こえてくるのはスタッフの寝息。
「おい、弁当来たぞ」
  私めの大音声に、たちまち彼らは目を覚まします。
 私め、心に誓いました。
「二度と楽屋ではやらない」

 

 
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