「茶柱がたった〜」
喜びの声を上げたのは二十歳(はたち)そこそこの女の子です。
「その若さで茶柱縁起を知ってるの?」
むしろ、私めが喜びを感じました。
…でも、喜びも半ばでございます。
それは静岡のお茶商人が売れ残った二番茶を売りやすくするため
「茶柱が立つと縁起がよい」
こう触れ回り、売り歩いたことにより、巷間広まったものです。 玉露や煎茶などの高級茶は、ぬるい湯をさし、時間をかけるから茶柱は立ちません。
これに比べて葉の多い番茶などは熱い湯でサッと出すから茶柱が立ちやすい。ここに目をつけた宣伝文句が茶柱縁起であったのです。
もちろん、女の子にはこの事実は伝えず、目出度し目出度しにしておきました。
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新茶、召し上がってますか?
静岡県は K のお茶にハマッて 20 年になります。
JA (農協)さんの仕事で K を訪れた時の感動は今も忘れられません。
通常、楽屋にはお茶と湯呑みとポットが用意されています。
もちろん、この K の時も主催である JA さんより、ちゃんとセットされていましたが、ちょいと様子が違っていました。
「お茶を召し上がる時は、楽屋当番の JA 女子職員にお声をお掛け下さい」
お茶セットの上にメモがありました。
お酒じやないんですから、お酌とかしてくれるわけはないだろうと、思いながらも、お声を掛けちゃうと
「は〜い」
その年の新人、19歳の女性が来てくれました。
「うちのお茶、とっても美味しいんですよ」
お茶より、別の話題をしたかったのですが
「皆さんに、美味しく呑んでいただきたいので、私たちが入れて差し上げますから、その都度、呼んで下さい」
お茶レクチャー、お作法ならぬ『お茶法』が始まりました。
「よその人は、すぐお湯を入れますけど、ちょっと、水で召し上がって下さい」
言われるまま、呑んでみれば、たしかに美味。
「うちのは、深蒸しですから、普通の急須じゃ詰まっちゃってて出なくなるんでよね。お茶が死んじゃいます。ですから、この急須は、うちのお茶を飲むための専用のものなんです」
なるほど、急須の内側は網で覆われていました。
「美味しく呑んで貰うために、急須を差し上げてるんです」
販売所では、お茶を買うと、この深蒸し用の急須がサービスされているのでした。
そんなことしたら赤字ではと尋ねれば
「うちのお茶の良さを分かっていただければ、それでいいと思います」
いかがですか、新人さんの発言ですよ。
地元のお茶を愛して誇りをもっているんですねぇ…。
「どうもありがとう。あとは自分でやるから」
急須に湯を注ごうとすれば
「ちんちんしたお湯、入れたらいかんよ」
咄嗟に出た遠州弁で私めを制止してくれました。
「湯飲みで冷ましてから、急須に入れて下さい」
かくて、徹底的に『 K のお茶法』を教わりました。
私めの好みである
「濃くて甘い」
お茶との出会いでした。
お茶が美味しいのと同時に JA さんの
「営業努力も美味しかった」
感動の1日でした。
日本人なのにお茶の飲み方を知らない
全ては、ここからスタートしています。
せっかく美味しいお茶をつくつても、お茶法が無作法となっているので、うまさが伝わらない。
ならば、急須をつくろう。飲み方を啓発して行こう。
「うちのお茶は美味しい」
絶対の自信があるから出来ることですね。
「甘いのがお好きですか〜っ、でも渋いお茶もいいですよ。静岡茶って一種類のものじゃないんです。沢山あります。いつか、お好みのお茶と巡り会って下さい。それが、うちのお茶でなくてもいいんですよ。端正こめてつくっていますからそのことだけでも、分かって下さればいいんです」
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写真は日本にお茶をもたらした茶祖・栄西禅師を称える『茶碑』です。
京都建仁寺にあります…その京都といえば宇治茶ですね。
九州なら八女、嬉野、忘れちゃいけない狭山と、茶どころは各地にあります。
どこのお茶もおいしい。
私めの場合、たまたま静岡のKでマッチしたお茶に出会えました。
それは、
わが人生における最大の幸運だったのかもしれません。
「お茶ならサントリーの伊右衛門が好き」
という時代ですから…。
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